WHOの生活習慣病予防に向けた指摘が鋭い
世界保健機関(WHO)は2016年10月、「Fiscal policies for Diet and Prevention of Noncommunicable Diseases(NCDs)」と題する報告書を発表しました。NCDsとは非感染症疾患、すなわち糖尿病など生活習慣病に起因する疾患のことで、肥満人口を減少させ生活習慣病を予防する財政政策をまとめています。
報告書には次のような趣旨の指摘がされています。
・1980年から2014年で世界の肥満人口は2倍、糖尿病患者は1億800万人から4億2200万人に ・砂糖、特に砂糖入り飲料の消費拡大が、肥満や糖尿病増加の原因
・砂糖入り飲料への課税は20%課税の導入で20%消費量の削減が見込める
肥満人口の倍増はなんとか予想できるにしても、糖尿病患者の3.9倍(42,200万人/10,800万人)は驚異的な数字で想像を超える増加率です。18歳以上の4割近くが体重過多にあり、約150万人が糖尿病で亡くなっています。
砂糖入り清涼飲料で20%課税は、観光地にある自販機の販売価格のようなやや高い小売価格をイメージします。糖質オフの視点で見ると、普段何気なく買う砂糖入り清涼飲料などが課税されて手を出しにくい価格になれば、たばこ税同様、消費量は一定の歯止めがかかるものと思われます。
砂糖入り清涼飲料への課税は生活習慣病の予防に効果があると指摘し、その導入を各国に呼び掛けた意義は大きいでしょう。
砂糖税をすでに導入している国とは?
世界的に見ると、砂糖入り清涼飲料への課税は、フランス(2011年)、メキシコ(2014年)、アメリカの一部の市(2015年~)などですでに導入され、イギリスも2018年からの導入が予定されています。
これらの国に共通していることは、概して肥満率が高く、その原因として砂糖入り清涼飲料の摂取量が高いという問題を抱えています。
日本で砂糖税が導入される日
国税庁のHP「税の歴史クイズ」によれば、過去日本では、1926年に清涼飲料税、1901年に砂糖消費税が課税されていたとのことです。
大正15年(1926年)に、炭酸ガスを含んでいるサイダーなどの炭酸飲料に清涼飲料税が課税されました。また砂糖消費税の歴史は古く、明治34(1901)年の「砂糖消費税法」の施行が始まりです。
清涼飲料水はビールと同じような高級飲料として扱われ、砂糖も黒糖は税率を低くし白い砂糖は贅沢品として税率が高く設定されていました。最終的にどちらも消費税に組み込まれています。
そして、厚生労働省が2016年6月にまとめた「保険医療2035」提言書の中で、
公費(税財源)の確保については、既存の税に加えて、社会環境における健康の決定因子に着眼し、たばこ、アルコール、砂糖など健康リスクに対する課税、また、環境負荷と社会保障の充実の必要性とを関連づけて環境税を社会保障財源とすることも含め、あらゆる財源確保策を検討していくべきである。
と提言しています。
日本人は欧米ほど肥満率が少ないものの、砂糖入り清涼飲料水の消費は確実に増大しているため、砂糖税、砂糖入り清涼飲料水への課税はそれほど遠くない将来にあるのではないかと予想しています。
なぜなら、過去において清涼飲料税や砂糖消費税の制度が存在したことに加え、糖尿病などの生活習慣病に対するリスクが急速に高まり、早急な政策が必須だからです。
砂糖税の光と影
砂糖入り清涼飲料への課税は、生活習慣病に起因する肥満や糖尿病の予防に効果がありそうな制度といえます。糖尿病患者が少なくなって医療費が減るだけでなく、税収の増加で財源確保の一助にもなります。
しかし一方で、砂糖入り清涼飲料だけを対象にして良いのか、糖質入りのお菓子や食品は対象にすべきかどうかという問題が残ります。課税によって、砂糖入り清涼飲料だけが売れなくなり、糖質ゼロの清涼飲料を開発・販売できたとしても売上が低下することは十分にあり得ます。そもそも課税が生活習慣病の予防につながるかという本質的な疑問もあります。
まとめ
砂糖税、砂糖入り清涼飲料への課税は、これまで見たように現段階では賛否両論あります。実際、前述の厚生労働省の「保険医療2035」の提言も、議論が始まったばかりです。
しかし、成人だけでなく未成年の肥満率が徐々に上昇し、糖尿病患者も増え続けている状況下では、知らず知らずに口にする糖質入りの清涼飲料やお菓子を制限する有効な方策(たとえば課税)が必須だと考えるのは筆者だけでしょうか。
「ゆるい糖質オフ」の実践に、身の引き締まる思いがします。
なお、砂糖入り炭酸飲料とはどのようなものかは、本HPの若い人ほど発病する「ペットボトル症候群」の摩訶不思議を参考にしてください。