有名医学誌『THE LANCET』に掲載された話題の論文とは?
2017年8月、『THE LANCET』のオンライン版に、「5大陸18ヶ国の炭水化物および脂肪摂取と心血管疾患および死亡との関連性」に関する研究論文が発表されました。
これを受けて、『「糖質制限」論争に幕―一流医学誌に衝撃論文』(東洋経済オンライン)や『「炭水化物が毎食7割超え」は注意 死亡リスク上昇』(NIKKEI STYLE)などの記事がネット上に掲載され、話題を呼んでいます。
その論文の要旨は次の通りです。
炭水化物摂取量は全死亡率の高いリスクと関連していたが、総脂肪および個々の脂肪のタイプは総死亡率の低下に関連していた。総脂肪および脂肪のタイプは、心血管疾患、心筋梗塞、または心臓血管疾患の死亡率に関連していなかったが、飽和脂肪は、脳卒中と逆相関していた。これらの知見に照らして、世界の食生活ガイドラインを再検討すべきである。
一言でいうと、「炭水化物の摂取量が多いほど死亡リスクが高まり、脂肪の摂取量が多いほど死亡リスクが下がる」ということです。
現在でもカロリーをコントロールする指標として、「脂質(脂身、油)を減らして、きちんと炭水化物(ごはん)を推奨」する栄養指導がありますが、こうした考え方とは相反する内容になっています。
日本人の食事に占める3大栄養素の割合
そもそも炭水化物や脂質はどれくらいの摂取が望ましいいのか、ここで一度確認しておきましょう。
すでに機会あるごとに紹介してきましたが、厚生労働省の「日本人の食事摂取基準(2015 年版)の概要」によれば、3大栄養素の食事摂取基準(総エネルギーに占める割合)は次の通りです。
炭水化物 | 50~65% | (中央値57.5%) |
脂質 | 20~30% | (中央値25.0%) |
たんぱく質 | 13~20% | (中央値16.5%) |
改めて見てみると、炭水化物の食事摂取基準は50~65%という高い割合です。また、脂質の食事摂取基準は20~30%となっています。これらは年齢と性別に関わらず、同じ摂取基準となっています。
研究調査の注目すべき数字
先に紹介した『「炭水化物が毎食7割超え」は注意 死亡リスク上昇』(NIKKEI STYLE)では、医学ジャーナリストの大西淳子氏が次のような記事を書いています。
炭水化物:最高群の死亡リスクは28%増
炭水化物については、最低群(総エネルギーに占める炭水化物の割合の中央値が46.4%)と比較した最高群(同77.2%)の総死亡リスクは28%高く、摂取量が多いほど死亡リスクは高い傾向が見受けられました。
脂質:最高群の死亡リスクは23%減
脂肪については、炭水化物とは反対に、最低群(総エネルギーに占める脂質割合の中央値が10.6%)に比べ最高群(35.3%)の総死亡リスクは23%低くなっていました。
飽和脂肪酸、一価不飽脂肪酸、多価不飽和脂肪酸の摂取はいずれも、少ない人より多い人のほうが、総死亡リスクと、循環器疾患以外による死亡のリスクは低いことが示唆されました。
大まかな数字で理解するなら、「炭水化物の摂取量が多いほど死亡リスクが3割程度高くなり、反対に、脂質の摂取量が多いほど2割程度死亡リスクは低くなる」ということになります。
栄養バランスからの見方
日本人は炭水化物を6割程度摂取することが多いのではないかと思います。日本人の食事摂取基準では炭水化物は50~65%となっていますし、麺類+ご飯物といった炭水化物の重ね食べも外食では多く、炭水化物が70%〜80%を超えることも珍しくないでしょう。
炭水化物が多いということは、食事摂取基準は「総エネルギーに占める割合」ですから、脂質やたんぱく質の摂取が少なくなり、栄養バランスが悪くなります。
逆に、脂質(例:肉類)の摂取割合が上がれば、たんぱく質も豊富に含まれますから、全体として炭水化物の占める割合が減り、炭水化物、脂質、たんぱく質の3大栄養素のバランスが良くなります。
このことは、「栄養バランスの良い食事は死亡リスクが低い」という常識そのものになっています。
まとめ
今回の研究から明らかになったことは、「炭水化物の摂取量が多いほど死亡リスクが高まり、脂肪の摂取量が多いほど死亡リスクが下がる」ということです。
糖質制限、糖質オフに関する批判的な意見があるなか、糖質制限の有効性が証明された研究でもありエポックメーキングな研究です。過去の常識をくつがえす研究報告という意味で、これからの新常識となる可能性を秘めていると言えるでしょう。
なお、「飽和脂肪酸、一価不飽脂肪酸、多価不飽和脂肪酸の摂取はいずれも、少ない人より多い人のほうが、総死亡リスクと、循環器疾患以外による死亡のリスクは低い」ことが示唆されています。
「循環器疾患以外」とあることから、解釈が間違っていなければ、脂肪摂取で総死亡リスクは低くはなるものの、循環器疾患は低下しないかあるいは高くなることを示唆しています。脂質の摂取によって血管プラークが肥厚し、動脈硬化を招くことは一方では避けられないようです。